DAY11



ふわり、ふわり、藍の揺らぎに天幕のようにして光が揺れる。

海の懐、潮の穏やかへ沈み眠る誰かの生きた吐息の残骸たちの中。
取り残されて青ざめた遺跡の影暗くに、ただ静かに揺蕩う影がある。

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――……

薄く水を透く体。少女のような上体と、蛸に似た触腕。
頭にくらげのような幕を被ったその魚は
ぷかり、ぷかり、小さく上る気泡の真珠を瞳に映しながら
ゆっくりとその瞼を揺らす。


――気が付いたらここへ居た。
自分が何処から来たか、何も知らなかった。

知っているのは、ここで目が覚めてから、それからの事だけ。

穏やかな潮の流動に流されながら、滲む様な薄青い緑の光が
浮かんで、それから、溶けて行く。

朧げに水に揺蕩いながら、ゆっくりと思い返すように考える。



――たしか、そう。

目が覚めてすぐに、一口食べた。
食べることは、生きて行くゆくことのその事だから。
それから沢山、口にした。


まず最初に食べたのは
白くてぶよぶよしたさかなだった。
お腹の中が真っ赤な、奇妙なさかな。

それから、ひらひらと泳ぐさかなを食べた。
縞模様のついた、小さなさかなと、幾つもの腕が生えていた、さかなも。

ぷかぷかと浮かぶ、丸い透明なさかなと
波の空まで顔を出して、薄くて四角いさかなも貰った。


四角いさかなをくれたあのさかなは、なんだか似ていた。
大きくて、脚がふたつあって、腕がふたつあって、首があって。

お腹の中が赤い、最初のさかなに何処かで似ていた。


ぷかぷか、泡が浮かぶ。


きっとなにかを知っている気がして。
きっとなにかを知りたい気がして、考える。

――きっと、もっとたべなくちゃいけない。



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……!

水流が僅か流れを変えるのに気が付く。
遺跡に足を踏み入れる探索者の気配に、影へと体を隠した。







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ヤグヤグ
「――……。」

その魚が逃げ、後から来た男は
そこに何者かの気配があったようにどこかで感じた。

それは、ひどく懐かしいような、なにか。


薄青い緑色の光がひとつ、滲むようにして溶けて行った。





  • 最終更新:2017-03-27 23:12:24

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