DAY15
うでがふたつ、あしがふたつ。
からだが大きくて、くびのあるさかな。
それはお腹の中が赤い、最初のさかなと同じ。
船で見つけた、白くて、ぶよぶよしたあのさかな。
船で寝ていたあのさかなを、お腹がいっぱいになるまでたべた。
だけど、まだ食べられるのは残っていたから、一度隠して。
それから、もう一度食べて。またもう一度、もう一度食べて。
あのさかなが小さくなってきて、かわりに少しずつ
自分のからだもあのさかなとおなじになってきたような気がする。
だけど、あのさかなと、自分は、きっと違うさかな。
だって、自分には足が無い。
自分は体もちいさくて、あのさかなとはまだちょっとずつ違う。
だからきっと、もっとあのさかなを食べなくちゃいけない。
だって。
それは、どうしてなのか解らないけれど
じぶんも、あのさかなと同じになりたかった。
そう思ったのは、そう。
はぐれた所を船で捕まえた、よく似たさかなにあってから。
何かを知っているような気がした。
何かを知りたいと思った。
だから、同じさかなになりたい。
おなじさかなを探して食べたい――
――青く揺れる水の中、遠くからさかなの後ろ姿を追いかける。
あしがふたつあって、うでがふたつあって、くびのあるさかな。
それは、それぞれどれも、すこしずつ鰭や鱗が違っていたけど。
船から外に出てみたら、思ったよりもたくさん泳いでいた。
だけど、そこは、にぎやかで、あかるくて、まぶしくて。
余り、長くは居たくなかった。
そうして、深くに潜っては
また、あの時のさかなを見つけて、追いかける。
何かを知っている気がするのは、あのさかなたちの事かもしれない。
何かを知っているのは、あのさかなの事かもしれない。
それがどちらかはきっと、あのさかなを食べればわかりそうだった。
だから、あのさかなをもう一度捕まえて。
今度こそには食べてしまおうか考えて、やめて。
それから、だけどやっぱり食べてしまおうかって、考えながらずっと見ていた。
さかながこちらを振り向く。
こちらへと手を伸ばすのが見えて、はっとして体をひるがえした。
隠れなくっちゃ。
そう思って、泳いで遠くへ逃げようとして、その時に。
水がごう、と音をたてて、目の前から渦を巻いた。
それはいつもさかなを捕まえる時に自分がするのと似ていた。
驚き、泳ぐのをとめて、抵抗をしようとして
「――!!」
くるり、くるり、世界が何回も回った。
こぽ、こぽと空気を吐き出す。
頭が下を向いて、もう一度上を向いて。
突風みたいな渦が止まる。
それからあわてて、もういちど逃げ出そうとして
鼻先が見えない壁にぶつかった。
鰭を伸ばす。
水の中に、硬い壁がある。
ひだりに、みぎに。見えない壁が狭く囲っていた。
壁の向こうから、手が伸びて、抱える。
ふりむくと、あのさかながこちらをのぞき込んでいた。
青い瞳に、自分の姿が映り込む。
さかなの唇が小さく揺れて、自分に何かを話しかけていた。
声は聞こえなかったけれど
とても、優しい顔をしていた。
- 最終更新:2017-05-06 02:46:40