DAY20



「あぁっ。
ねえ。今、結婚式だなんて今更だな、って思ったでしょ?」



「……そんなこと無いさ。
礼や儀式は少し、苦手なだけ。」


気恥ずかしそうに口先をとがらせる青年に、貴方らしい、と高い鼻の女性が笑う。

青い花が海のように咲く丘の上。
波を揺らす風と抜けるように高い空をチャペルにして
飾らぬ格好で二人向かい合う。


旅を共にする助手たちのささやかな祝福の元、祝辞に倣いリングの交換をする。


「本当にこんなのでよかったのかい。
もっときれいな宝石が買えたじゃないか。」

遠慮がちに、彼女の細い指に通したのは
二人揃いの貝殻の小さな飾りのついた指輪。

「だって私、海が好きだもの。」
白いほほに紅をさして、彼女は頷いた。



「ねえ。ムロジャフ。

私たち、これからはずっと一緒に居られるの。
いろんな海を渡ってどんな所へでも行ける。
砂漠の蜃気楼を追って。山頂の雲の先を追って。
眠る森深くの花を摘んで。雨の日の雲も晴れの日の空だって。

ずっと、貴方と一緒に居られる」


そう笑った彼女の顔に、細めた瞳の視界が白く眩んだ。


それから、わずか風がやみ。
長い口づけの後、ネモフィラの花が祝福を受けて揺れさざめく──






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ヤグヤグ
「……あぁ……。」

──曖昧に薄れる意識の霧の中で、夢を見ていた。
それに気が付いて いけない、と口に含んだ布を噛む。


鋭く脈打つ痛みに脳幹が芯まで痺れて
朧の視界の中、指先の冷たい震えに抗いながら、
スキルストーンを握りしめて左の腕に宛がう。


背を丸めて伏した台上には赤い泥の色に汚れたナイフが突き立っていた。

その脇に濡れたまま転がるのは、数片の薄削ぎの肉。



明かりの差さない暗い部屋の底で蛍のように淡く光を落とすスキルストーンが
滲む血液に汚れて滑った。



背面に置いた水槽から、水の跳ねる音がする。



──まだ未熟な体で水を掻く「彼女」が、体に付いた鰭を捨て
あるべき姿を取り戻すまでには、それと同じ肉が要る。


腕の痺れが、しかし薄らと心地良かった。



夢に見た朧は一度は破られた契りの言葉。
今にその時が満ちたなら、誓いの刻が再び訪れるのだろう。

つまり、そう。


これからはまた、ずっと一緒に居られる。




  • 次の日誌……まだよ



  • 最終更新:2017-06-26 18:14:35

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