DAY23



海の深く、光の届かない場所。



ガラスの中とは違って、広い海
体の傷はとうに癒えていたけど、背中が疼いて身をよじった。



狭い世界が壊れて、落ち着ける場所まで逃げてきた
けれど、何か胸の奥で嵐が鳴る。


優しい目をした陸の魚

体を分けてくれたあの瞳を
何処か懐かしく思えたのは、その色のせい。
何処か懐かしく思えたのは、その匂いのせい。


どうしても、のどが渇いて。耐え切れなくなって。
そうして狭い水を壊したように
いつからか自分にはその力が備わっていた

だけど、それをしなかったのは
向けられた背の何処かに見覚えがあって思えたからかもしれない。



喉が渇いた。


手を伸ばしたけれど、喉の乾きはまだ癒えない。


台に向かうあの魚の背を思い出した。
それは、いつかに見たような気がしていた。


ひとりぼっちで背中を丸める小さな後ろ姿
思い出したその姿は、まだ小さな子供の姿。
それは白い世界の中でぼんやりと、たたぼんやりと思い出される。

きっと、あの魚のことを知っている。



喉が渇いた。



何かを思い出しそうで、まだ届かなかったけれど
それは、あの魚と……あの人と同じ影をした誰か。



喉が渇いた。


まだ、乾きは癒えないけれど
何かを思い出したかった。


両腕を岩についてもたれかかってそれから、自分の両手を見た。
それは、前までの鰭とは違って、陸の魚たちに似ているものだった。

人。

なにかを思い出したくて。そのためには、きっと人にならなければいけない。

だけど、それにはまだ、足りない。
癒えない乾きを感じながら、海の底から陸を眺めた。








  • 最終更新:2017-10-09 15:23:41

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