DAY37


助手の男が小屋を離れた。

そのうちにはこうなる事は知れていた。
むしろ、ようやくに諦めたかと心の遠くであきれた程だ。

それでも、空になった部屋を見ればついにだれも居なくなったかとどこかで思う。


独りでいる事には慣れていたと思っていた。
思い返せばしかし、孤独には一度も慣れたことがなかったのだと思い出す。


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ヤグヤグ



波の飛沫に裾が濡れる。


何かに誘われるようにして、あてもなく海に船を出していた。
波の流れのままに流されるようにして
荒れ始める海をぼんやりと眺める。





ふと、海の底からイルカの遠鳴のような声がする。
波間を覗き込めば濁る藍色の奥底にクジラの尾びれが揺らいで見えた。


不意に懐かしいような心地になる。

波の底に見える巨大な尾鰭は
しかし、クジラのそれではない。

尾鰭の対、胴体は人の形をしていた。


水にふやけたような巨大な人魚が
顔のない白い頭でこちらを見つめている。

悲しげに響く人魚の声が自身を誘うように思えて
まどろみに身を投じるようにして、おもむろに船の縁を超えた。



荒れる波に何度となく揉まれながら
両手を広げる人魚の元へ落ちてゆくその中で
遠くから「彼女」の声が聞こえた気がした。





それから、また陽が落ちる。


目を覚ませば独り、浜辺に寝かされていた。



体を起こして水平線に視線をやれば
押し寄せる波の音が自身をあざ笑う声のように聞こえた。

それから、自分が何をしているのか、解らなくなり暮れ行く空に背を丸める。


やはりそう。
自分は、未だに生きる方法を知らないままなのだろう。



群れに帰る鳥の声が決して届かない何かを知らせているような心地がして
意味もなく、情けないようにすこしだけ笑った。





  • 最終更新:2018-04-22 22:48:59

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